EP21 人の行く道【FE風花雪月】

決戦を前にして、
ディミトリはエーデルガルトと話し合いの場を持った。
2人の言い分は食い違い、並行線をたどる。
しかし奇妙なことに、お互いの気持ちは通じ合うのだった。

面影

大修道院へ戻るとディミトリはさっそく
「ダスカーの悲劇」に関与した兵士の尋問を始めていた。
ベレトとギルベルトもそれに立ち会う。

兵士は、ディミトリの継母パトリシアが共犯者であるとハッキリと証言した。
「パトリシア様はコルネリアと結託して、あの悲劇を引き起こした」

ディミトリは
「首をはね飛ばすぞ?」
そう言って信じないのだが、ギルベルトは意外な事を言い出す。

「パトリシア様は何としても、帝国に帰りたかったのでしょう」

以前ロドリグがパトリシアを疑った時は、
今のディミトリ同様に怒りだしたギルベルトだったが、
その後、独自に調査したところによると、
疑惑が本当だと確信するに至ったようだ。

ダスカーの悲劇はどうやら、
複数の関係者がコルネリアに加担することで起きた事件らしい。

この兵士の主人であるクレイマン子爵は、
ランベール王の急進的なやり方に不満を持ち、加担した。

パトリシアもまた、
帝国に帰って娘エーデルガルトに会いたいために、加担した。

それにしてもパトリシアの行動はおかしい
娘に会いたいなら、他に手段はあったはずなのに、 なぜ最も悲惨で、
下手をすれば外交上の大問題になりうる手段を選んだのか。
これでは帝国にも王国にも居場所がなくなってしまうではないか。

亡命して来たとはいえ、パトリシアの望まない結婚だったのだろうか。
それとも最初から陰謀を秘めてランベールに近づいたのか。
そうではなく、コルネリアに騙された可能性もある。

真相はわからない。
いずれにしろ、パトリシアを実の母と慕っていた
ディミトリに気の毒な話だ。

この事件の主犯である「闇に蠢く勢力」こそ、
王国にとって最大の敵であるように思える。

--。
兵士の尋問を終えたディミトリは、さすがにショックを受けていた。
思い出せる母の面影は、いつも悲しい顔をしている。
いったい何故こんなことになったのか。
しかし、以前のように憎悪に捕らわれることはなかった。

今、自分にできることだけを考える。
死者は憎悪による復讐なんて望んでいない。
自分の信念に前向きに生きてほしい、そういう声を聞かされたのだ。
ディミトリは王国の再建を強く決意するのだった。

その前にエーデルガルトと話す必要がある。
戦争を始めたことを避難するのは簡単だ。
だがもし、彼女にどうしても譲れない信念があったとしたら?

自分がそうであったように、
エーデルガルトも苦しんだ上での行動なのかもしれない。
わずかでも、変わる可能性があるかもしれない。

同じ母に育てられた家族として、どうしても話がしたかった。
エーデルガルトがどんなに変わろうとも、ディミトリには、
幼い時に好きになった彼女の面影が、ずっと消えずに残っていた。

短剣への想い

帝国領土を進む王国軍は、帝都アンヴァルに迫っていた。
しかしすぐに攻めることはせず、
アンヴァル郊外にてエーデルガルトに使者を送り、
話し合いの場をもった。

エーデルガルトがこれに応じたということは、
2人の信頼関係は相当に厚いのだろう。

ディミトリはさっそく、彼女がなぜ戦争を始めたのかを聞いた。
その答えは意外なもので、
「戦争の方が犠牲が少ない」
というものだった。

つまり平和が続けば、もっと多くの犠牲が出るということらしい。
そういう世の中の構造を変えるために、
一時的に多くの犠牲が出てしまう戦争を始めたというのだ。

「それは強者の論理だ」
戦争によって犠牲になるのは弱者である。
ディミトリはそう指摘するが、エーデルガルトは、
「女神に救われず死んでしまった弱者が、私なのよ?」
思いもよらないことを言い出す。

セイロス教を中心とした5年前までの平和は、
エーデルガルトにどんな不幸をもたらしたのだろうか?

伯父おじアランデル公とファーガス王国で亡命生活を送った過去があり、
幼い頃から苦労人だったのは分かる。
頼れる唯一の身内であったアランデル公の正体が「闇に蠢く者」で、
「ダスカーの悲劇」のような陰謀を
帝都アンヴァルにおいて仕組んだ側の人間だったとしたら?

あの亡命は茶番劇であり、その犠牲になった
エーデルガルトの境遇はディミトリに匹敵するか、
それ以上だった可能性もある。

ディミトリを殺人鬼に変えた憎悪、
あれと似たような憎悪がエーデルガルトを捕らえ、
それをセイロス教に向け、戦争を始めたのかもしれない。

あるいは大司教レアが隠していたセイロス教の禁忌タブー
あれがどうしても許せない重要な理由になるのかもしれない。

……両者の話は食い違い、並行線をたどった。
しかし奇妙なことにお互いの気持ちが通じ合ったのは、
同じく巨大な憎悪に直面した者同士で、わかり合えたのだろうか。

--。
エーデルガルトがディミトリに別れを告げる。
ディミトリは
「……待て、エーデルガルト。君に返さねばならない物がある」
そう言って短剣を、
幼い頃に彼女に贈った短剣を、当時と同じ気持ちのまま渡した。

「君の望む未来を切りひらくんだ」

幼いあの日、短剣を渡されて戸惑うエーデルガルトを見て、
ディミトリはずっと後悔していた。
物騒な武器ではなく、もっと彼女が喜びそうな物を選べばよかったと。

だけどディミトリの気持ちは今も昔も変わらない。
だからこそ同じ言葉を添えて、あの頃と変わらぬ想いを伝えた。

エーデルガルトは驚きつつも、再び短剣を受け取った。
「ありがとう。あなたのおかげで、私の心はくじけなかった」

どんなに苦しい時でも、負けては駄目だ。
ディミトリの想いはちゃんと、彼女に届いていたのだ。
だからこそ短剣を肌身離さず持っていたし、
再び受け取ったのだろう。

しかし互いの立場は変わり、
あの頃の自分はもういないと、エーデルガルトは言い切った。

……2人は別れた。

制圧

トップ同士による首脳会談は物別れに終わり、
王国軍は帝都アンヴァルの制圧に乗り出した。

エーデルガルトのいる宮城を守るべく腹心ヒューベルトが陣を構え、
ドロテアは砲台から王国軍をしきりにけん制してくる。
ペトラは外様とざまの立場のためか、
少し離れたところに様子見として陣を構えているようだ。

王国軍としてはペトラを刺激しないように進軍し、
敵の増援が本格化する前にヒューベルトを倒し、宮城へ乱入したかった。

ドロテアは学生時代の最初の模擬戦の時も
エーデルガルトのために危険な前線を受け持ったが、
今回も王国軍の前に立ちはだかって侵攻をよく食い止めていた。

しかしペガサスに乗ったイングリットがわずかの隙をついて
ドロテアを撃破、それをきっかけにアンヴァルの第一防衛戦が崩れた。

残るはヒューベルトが守る宮城前だったが、
さすがにここの防御は厚く、
すさまじい魔法攻撃が雨あられと降ってくる。
ここは時間をかけて攻める必要があった。
様子を見ていたペトラ隊も動きだす。

王国軍は勢いに任せて前線が伸びていたので、
いったん態勢を整えてから総攻撃をかける、そう思われた。

そう思ったヒューベルトの裏をかき、威力偵察をかねた
イングリット、セテス、レオニーの機動部隊が、宮城前に殺到。
防衛を本格化させる直前のわずかな隙をついて
ヒューベルトを強襲した。

魔獣などを素通りして奇襲され、ヒューベルトは後手に回ってしまう。
3人に押されまくり、ついに倒れた。
「今はただ、我が主の勝利を信ずるのみ…… 」

司令官が倒れたことによって、
残存していた帝国兵は投降、あるいは散り散りになって逃げてゆく。
これによってペトラと剣を交えることは免れた。

ディミトリは各小隊に市街地の制圧を命じ、
自らが率いる本隊は、宮城への進軍を開始した。
エーデルガルトとの、最後の戦いが始まろうとしている。

エーデルちゃん、ごめんね。もう私には……
今はただ、我が主の勝利を信ずるのみ……

セイロス教の闇

もう勝利は目前に見える。
仲間たちは誰も欠けることなく、全員無事だ。
少し浮かれるベレトに、油断するなとしかるディミトリ。
「相手はエーデルガルトだ」

追い詰めたとはいえ、
彼女は大きなものを背負ってこの戦争を始めた張本人である。
簡単に勝利できる相手ではないだろう。

ドゥドゥーは命に代えてディミトリの盾になると誓い、
アッシュは自分にできることを全力でやりとげると誓う。
イングリットは騎士の名に懸けて勝利することを誓った。
アネットはみなで一緒に無事に帰れることを願い、
メルセデスはみなの無事を女神に願う。
シルヴァンとフェリクスは、最後の戦いに臨むディミトリに
後ろを振り返るなと念を押し、気合を入れた。

青獅子の仲間たちにとっても、最後の戦いになるだろう。

「絶対に勝つ。進軍せよ!」
ディミトリは命じた。

--。
宮城の最奥部「玉座の間」で待つエーデルガルトは、
ヒューベルトに反対されていた段取りを終えていたようだった。
側近たちを玉座の間から遠ざけ、彼女が果たしたことは……、
化け物への変身だった!

激しい痛みを伴う変身だったが、彼女は
「この程度の痛み、あの頃を思えば……!」
そう言って耐えた。

人を化け物に変える力を、大司教レアは必死に隠していたが、
それと似たような力を、エーデルガルトも使ったのだろうか。

学生時代、「闇に蠢く者」の首魁タレスは、
エーデルガルトのことを
「我々の最高傑作」と言っていた。

エーデルガルトは幼い頃からアランデル公を通じて
「闇に蠢く者」と接触していたのだろう。
その時に彼女は化け物へ変身する力を与えられたのかもしれない。

それは激しい痛みを伴うものだった。
あの頃を思えば、今の痛みは大したことない、
そういう事なのだろうか?

先日ディミトリに言った
「あの頃の自分はもういない」
あれは比喩ではなかったのかもしれない。

セイロス教の禁忌タブーさえなければ、
エーデルガルトはこんな化け物にはならなかったのではないか。

変わったしまった自分の身を恨むならば、
エーデルガルトにとって、
セイロス教こそ打破すべき根本なのかもしれない。
これを絶やさぬ限り、その暗部でうごめく者たちもなくならない。

真相は不明だが、エーデルガルトを戦争へと駆り立てる信念には
並々ならぬものがありそうだった。

しかしディミトリにも強い信念がある。
引くことはできない。
2人の信念がぶつかるのは、避けられない。

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