ディミトリが時折見せる影。
それは本来なら隠すことができないほど巨大な影なのかもしれない。
ルミール村での悲惨な光景が、その影を濃くする。
それは隠していたわけではなく、
開放することこそ、ディミトリの生きる糧だったのかもしれない。
謎の症状
ルミール村を調査してきたシャミアが、
村人の異変について医師のマヌエラに相談していた。
村人たちは情緒不安定というレベルではなく、
闇の魔道に犯されている。
マヌエラはそう判断した。
それを聞いたジェラルト・ベレト父子は
ルミール村を助けに行くことを決める。
彼らには傭兵時代に世話になった恩があるのだ。
さっそく準備に取りかかろうと、いったん父子は別れようとした。
--その時、ベレトを眩暈が襲い、倒れてしまった。
すぐに正気を取り戻して起き上がったが、原因不明の不吉な眩暈だ。
ベレトの中に住むソティス、彼女も同じく眩暈に襲われたらしい。
以前に同じような事を経験したというが、
何か悪いことが起こる前触れなのだろうか。
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アランデル公の正体
そんなある日、身分の高い貴族がガルグ=マク大修道院に到着していた。
玄関ホールで出迎える人の中にディミトリの姿があった。
その人物はアランデル公であり、帝国の摂政を務めている大物だ。
エーデルガルトの母親の兄である。
つまりエーデルガルトの伯父に当たる。
そしてエーデルガルトの母親は、ディミトリの父親と再婚している。
つまりディミトリにとって、
アランデル公は義理の伯父で、
エーデルガルトは義理の姉、ということになる。
国同士を婚姻関係で結び、安定させる。
特に珍しいことではないが、
ディミトリがエーデルガルトを意識するのには、
他にも理由がありそうである。
そのことは追々に話す、そう言ってディミトリは行ってしまった。
アランデル公と言えば、
以前にディミトリが書庫で寄進記録を調べていた人物である。
フレンが行方不明で
捜索に全力を挙げていた時期だったので、強く印象に残っている。
ディミトリはそれを調べて、何を知りたかったのだろうか。
その手がかりとなるのが、大司教レア暗殺未遂事件の黒幕が、
アランデル公であったという事実である。
彼は炎帝や死神騎士と繋がっていて、
西方教会をその実行犯として使い捨てにした。
聖セイロスと戦ったネメシスを「盗賊」と呼び、
多額の寄進までしていたのだから、ある時点までは
熱心なセイロス教徒だったのだろう。
ところが今は、炎帝や死神騎士と手を組んで
セイロス教の秩序を破壊しようとしている。
もしくは大司教レアを排除しようとしている。
炎帝との不一致を考えると、
セイロス教までは否定していないのかもしれない。
いずれにしても、炎帝らの勢力と帝国が繋がっている事実は、
フォドラの平和にとって恐るべき暗雲と言えそうだった。
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変調
「急いで準備しろ!」
ジェラルトの怒声が響く。
ルミール村の状況が一変し、村人同士が殺し合いを始めたというのだ。
急いで現場に急行する青獅子の生徒たち。
家々は焼かれ、村全体が煙でくすんでいる。
悲鳴と喚き声の中、
狂暴化した一部の村人が、仲間や家族に襲い掛かっている。
村は目も当てられない地獄絵図だった。
生徒たちは驚くが、
なかでもディミトリの様子がおかしかった。
突然うつむき、苦しそうに顔を歪めている。
その時、ドゥドゥーが怪しい人物を発見する。
村人たちを扇動しているようにしか見えない、
この騒動の犯人だった。
村人救出の方針を決めあぐねていた生徒たちだったが、
ディミトリの一声で決定する。
「四肢をもいで、そいつを殺せ!」
驚くべき発言だった。
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闇のつながり
村人たちの救出活動に入った生徒たち。
暴れる村人が多く、なかなか犯人にまでたどり着けない。
遠巻きながらその様子を注視していたディミトリが気付いた。
村人を扇動しているあの人物は、
長年ガルグ=マク大修道院で書庫を管理してきたトマシュ。
ディミトリは問いただそうと声をかける。
するとトマシュは慌てるどころか開き直り、その姿を変えた。
外貌はみるみると変わり、老獪そうな人物が姿を現した!
彼はソロンと名乗り、
トマシュに姿を変えて大修道院に潜伏していたのだという。
その目的はやはり、フレンの血だった。
誘拐された時に彼女は血を抜き取られたのだろう。
その血が、村人を狂暴化させたのだろうか。
セテスはフレンの血は希少で危険なので、狙われたと言った。
その希少性は「英雄の遺産」のように、
人を化け物へと変えて、人に襲いかかる、
あれと似たような性質のものなのだろうか。
つまりは女神に由来する禁忌なのかもしれない。
死神騎士がこの騒ぎに乱入してきたことも、それを裏付ける。
彼らが繋がっているとすれば、
今まで起きた事件は全て大修道院にとって不都合な真実、
隠さなければならないことを
明るみにしようという行為として共通しているのだから。
何が正しいかはわからないが、
この村で起こっていることは止めなければならない。
ソロンを討とうと正面から向かったフェリクス・ジェラルトを、
横合いから叩こうと死神騎士の軍勢が回り込んでくる。
それを察知したディミトリ本隊が前に立ちはだかり、
両軍の激しい戦闘の末に、壊滅させた。
死神騎士にはまたしても逃げられてしまったが、
今はソロンを止めることが先決。
ほぼ同時に、フェリクスがソロンを撤退に追い込んでいた。
ソロンは去り際、「実験は成功」そう言い残した。
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炎帝の意外な言葉
ソロンが去ると、村の騒ぎは終息へ向かった。
後片付けをするジェラルト・ベレト父子の前に、炎帝が現れた。
敵の出現に驚き警戒する父子だったが、殺気は感じられないようだった。
炎帝は意外なことを言い出した。
ソロンは炎帝の協力者には違いないが、目的は違うという。
特に今回のルミール村の事件には、炎帝も憤慨していた。
今回のようなことを2度と起こさないためにも、
協力しようではないか。
そう提案してきた。
「天帝の剣」を操ったベレトに共感を感じ、
味方に引き入れたいのかもしれない。
ソロンの企ては阻止したいが、炎帝がしてきたことも肯定できない。
協力すれば敵情を知ることができそうだが、
ディミトリたちから誤解を受けるかもしれない。
そんな迷いを見透かされたか、
ベレトに協力の気がないことを悟り、炎帝は立ち去った。
その様子を見ていたジェラルトは、
ベレトが大修道院に来てすっかり変わったとしみじみと語りだす。
以前は感情をいっさい表に出さなかったという。
ジェラルトはある決意をしたようだ。
ベレトの生い立ちを話す気になったらしい。
大修道院に戻ったら、話があるから部屋に来い。そう言われた。
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大修道院に戻り、
訓練場で兵装を解いているとディミトリに声をかけられた。
「さっきは見苦しい所を見せて悪かった」
確かに、普段の彼らしからぬ過激な発言をしていた。
ディミトリはルミール村の惨状を見て
頭が真っ白になったらしい。
幼い頃に両親が殺された「ダスカーの悲劇」という事件と
同じ光景だったというのだ。
以前にディミトリは
「人にはどうしても譲れないもの」があると言った。
ディミトリにとって「ダスカーの悲劇」のような事は
絶対にあってはならない。それだけは譲れない。
それを起こしたソロンや炎帝は「駆除すべき害獣」である。
罪なき者を殺めることは、ディミトリにとって人間失格なのだろう。
害獣が出たのだから速やかに駆除するという、
シンプルな道理だった。
そしてディミトリはベレトにだけ、ある秘密を打ち明けた。
士官学校に入った目的、
それはフォドラの平和のためでも、王国の繁栄のためでも、
ましてや自分のためでもなく、
「ダスカーの悲劇」の復讐を果たすためだ。
そう言って立ち去ってしまった。
--。
翌日、大司教レアに報告しに上がる。
レアの話によると、ソロンや死神騎士のような勢力は
「闇に蠢く者」として大昔から存在するらしい。
ガルグ=マク大修道院が建てられる遥か以前からというから、
セイロス教とは、
「闇に蠢く者」 との戦いの中から生まれたのかもしれない。
こういう情勢だからこそ、ベレトに期待するとレアは言う。
彼女はセイロス教が奉ずる女神の名前を初めて口にした。
「ソティス」
……ベレトの中に住む少女と同じ名前だ。
ベレトの中に、太古の女神が住んでいるというのか。
長く途絶えていた「炎の紋章」と「天帝の剣」の復活。
それらは女神が人間に授けたものだ。
ベレトに女神が宿っているなら、それを使えるのも自然だろう。
もしそうなら、なぜベレトなのか。
父ジェラルトが出生の秘密を教えてくれると言っていた。
ジェラルトから話を聞かなければならない。
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