愛する者を失う苦しみを誰よりも知っているディミトリが、
他者の愛する者を奪う……。
それは人間であることを捨てる、大きな代償を払ってのことなのだろうか。
5年ぶりの再会
セイロス騎士団を率いてレアを捜索していたセテスは、
ベレトたちが集まっていることを知って、ガルグ=マクに帰ってきた。
誰もがこんな同窓会になるとは思わなかった。
学友であったエーデルガルトを討つために、
かつての学舎を拠点として帝国との戦いを決意するなどとは……。
しかもディミトリに学生時代のさわやかな面影はなく、
人の意見に耳を貸そうともしない。
それどころか、みなで団結することも
「くだらない」と一蹴するありさまなのだった。
学生時代にディミトリを「猪」と呼んで
その本性を見抜いていたフェリクスでさえも、
「まるで別人だな……」
そう言わせてしまうくらいの、激変ぶりであった。
死者への愛と、妹への愛
ディミトリはひとり、死者と会話をしていた。
親友だったグレン、父と母……。
彼らを殺したのはエーデルガルトであり、
王位を奪ったのもエーデルガルトだった。
彼女の首を持ち帰ることが死者への供養であると信じた。
死者と会話しているときにだけ、
彼は若かりし頃の面影を少しだけ見せていた……。
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一方、帝国軍はこちらの動きを察知し、
ガルグ=マク大修道院に若きランドルフ将軍を向かわせていた。
ランドルフにも愛する家族がいた。
厳しい戦いになると予感した彼は、
妹フレーチェに前線へ出ることを許さない。
兄を心配するフレーチェは前線へ一緒に行きたいと頼むが、
「必ず帰ってくる」
兄の力強い言葉に、同意せざるを得なかった。
ギルベルトの策略
若きランドルフよりも歴戦の将ギルベルトが一枚上手だった。
敵を挑発して一所に集めると、火を放って大損害を負わせた。
ランドルフは撤退を余儀なくされ、その殿を務める。
非常に危険な任務を大将自ら買って出るあたり、
兵を大事にする人物なのだろう。
しかし、ディミトリに捕らえられてしまう。
非情なる復讐心
捕らえられたランドルフは愛する家族がいることを訴えるが、
ディミトリは無情だった。
無情どころか、残酷だった……。
家族のためだろうと、死者のためだろうと、人殺しに変わりはない。
そうであるなら大義の名のもとにそれを肯定するよりも、
自分のように非人間的な化け物になるべきだ。
ディミトリはそう言いたいようだった。
理由はどうあれ人を殺しておいて、人間らしく振舞うな、と。
見かねたベレトが一閃のもとランドルフを楽にする。
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帝国軍を撃退することはできたが、彼我の戦力差は歴然であり、
本格的に侵攻されれば修道院はもたないだろう。
そこで旧王国領で抵抗運動を続けるフラルダリウス公ロドリグに
援軍を要請することにする。
フェリクスの父親であり、
「ファーガスの盾」と呼ばれる頼もしい人物だ。
亡き父の親友であった彼は、
ディミトリにとって家族同然の付き合いがあった。
王家に忠義の厚い彼の元には
王国復活の志ある者たちが集結しているという。
正当な王位継承者であるディミトリに
彼らが合流すれば立派な軍勢となり、
王都奪還も夢ではないだろう。
まずは王都を奪還し、
十分な態勢をとってから帝国と対峙するのが現実的と思えたが、
「帝都を落せば戦争は終わる」
ディミトリはそう言って、王都奪還の考えがないことを示した。
ベレトの提案に耳を貸すこともなく、
彼の復讐心が全てに優先されてしまうのだった……。