EP10 女神の行方【FE風花雪月】

幼かったあの日、エーデルガルトとの別れ際に贈った短剣
ディミトリは今でも覚えている。
忘れたくても忘れられない短剣を、
意外なところで目にすることになった……。

短剣

ディミトリの復讐ふくしゅうへの思いは強く、
そのための情報収集に余念がないように見える。

夕食に姿を見せなかったある日、
部屋にもおらず、修道院内を探しても見当たらず、
城郭付近まで足を延ばすと、息をひそめているディミトリを見つけた。
夜もかなり遅い時間である。

視線の先には3人の影がある。
ジェラルトを刺したモニカ、彼女の犯行を助けた魔導士、
それに炎帝えんていだった。
もう少し会話を聞くと、
彼らの正体とくわだてを暴くことができそうだった。

魔導士の名はタレス
どうやら「闇にうごめく者」の首魁しゅかいのようだ。
炎帝はルミール村で、ソロンに対していきどおっていた。
タレスに対しても、同じ憤りがあるようだった。

ディミトリの家族が殺されたダスカーの悲劇は、
タレスによって引き起こされたらしい。
そのことに不快感を示した炎帝は、
アンヴァルでも同じような悲劇が起こったと言った。

アンヴァルは帝国の首都なので、
そこでダスカーのような悲劇が起こったとすれば、
暗殺による政変があったと予想される。

エーデルガルトが幼い時に王国へ亡命した事と、
関係がある可能性もある。

ともかく炎帝は「闇に蠢く者」たちに必ずしも同調していないのだが、
タレスのおかげで炎帝が力を得た関係上、
やはり、彼らの繋がりは強そうである。

ディミトリにとっては彼らの事情などはどうでもよく、
重要なのはダスカーの一件だった。
この会話によってダスカーのかたき
この3人であることに確信を持つに至る。

飛び出そうとするディミトリの殺気に
いち早く気付いた炎帝が、とっさに短剣を投げた
その隙に3人は、ワープ魔法によって姿を消してしまった。

そこに落ちていた短剣を見て、ディミトリは息を飲む。

それは幼い時に、エーデルガルトにおくった短剣だった……。

敵情をつかむ

ジェラルトを殺害したモニカを探す大規模な捜索が、
騎士団によって連日続けられていた。
そして、敵の足取りがようやく掴めた。

大修道院の近郊に生い茂る「封じられた森」に潜んでいるようだ。

しかしそれは罠である可能性が高く、
騎士団が出払っているタイミングでわざと姿を見せ、
復讐に燃えるベレトを森へと誘い込もうとする意図がありそうだった。

そのためレアとセテスはこの情報を伏せ、
自らが討伐に出向こうと準備をしていたのだが、
情報をつかんだディミトリがこの事をベレトの耳に入れた。

これはジェラルトのとむらい合戦なのだ。
ディミトリは必死にレアを説得し、出陣の許可を得た。

敵の罠かもしれなかったが、
どんな相手だろうと戦わなければならない。

そう思うディミトリの脳裏に、エーデルガルトの顔がちらついて
一瞬、表情が曇った……。

融合

森の奥へ入っていくと、敵の気配が濃くなってくる。
そこには魔獣が待ち構えていて、やはり罠であったようだ。

モニカだと思っていた女生徒は、クロニエが化けた仮の姿だった。
おそらく本物のモニカトマシュも、とっくに殺されていて、
その姿を利用されていたのだろう。

ひらけた一角に敷石しきいしが長方形に並んでいて、
そこに立つクロニエがしきりにベレトを挑発している。

亡き父ジェラルトの顔が脳裏をよぎる。

あっという間に敵陣を突破したベレトは、
クロニエと剣戟けんげきを交えて、彼女を敷石の端へと追い詰めた。

その時、背後から現れたソロンが、
仲間であるはずのクロニエを捕らえて、
身動きができなくなった彼女の体から魂のような黒い物体を取り出す。
それが四隅よすみにある石柱と反応し、煙のように広がっていく。

黒い煙は敷石の中央に立っていたベレトを包み込み、
クロニエから取り出された心臓のようなものが潰されたのが合図となって、
一気にベレトを飲み込んで別の空間へと飛ばしてしまった。

その空間とは、もう2度と出ることのできないやみなのだという。

ソロンはそれを「ザラスあぎと」と呼んだ。
ザラスという者の口の中に入れたという比喩なのだろうか。
ザラスとは何なのか。

遠巻きに見ていたディミトリ達からは、ベレトが消えたように見えた。

しかし、ベレトはすぐに帰ってきた。
髪が緑色になっている。

--。
ベレトに宿っていたのはやはり、女神ソティスだった。
どういう絡繰からくりか、レアは赤子だったベレトに女神を宿らせた。
ベレトが、泣きも笑いもしなかったのは、
女神がまだ仮死状態だったからのようだ。
最近になってベレトに感情が戻ったのはつまり、
女神ソティスが復活したことを意味する。

そのソティスの存在をベレトの中から消して、
彼の肉体と融合させることで、
脱出不可能の闇を抜けだしたのだった。

「ありえぬ」

ソロンは狼狽ろうばいし、ベレトを始末しない限り、
タレスの元には戻れないと、死をして戦いを挑んでくる。
しかし、女神と融合したベレトの敵ではなかった。

セイロス神話

闇の中で女神ソティスと一体化したことを話すと、
ディミトリはセイロスの神話とそっくりだとおどろく。
かつて女神はセイロスを地上につかわせて、邪悪な王を討たせたという。

その光景をベレトは夢で見ている。
セイロスも感情を持った一人の人間だったという事だろう。
レアのような者が女神を宿らせ、やがて融合した。
ベレトの身に起こったように。

邪悪な王とされたネメシスは、
セイロスに敗れたから、悪にされた可能性もありそうだ。
人間同士の争いではよくあることだ。
なにせ夢に見た聖者セイロスの姿は、
聖なる存在というよりも、とても人間臭い存在だったのだから。
突然、眠くなる。

--。
気が付くと、あの子守歌の中で、レアに見守られて眠っていた………。

前へ  次へ
目次